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仙台高等裁判所 昭和24年(を)674号 判決 1950年6月20日

被告人

佐藤勝美

主文

原判決を破棄する。

本件を仙台地方裁判所大河原支部に差し戻す。

理由

弁護人菊地養之輔の控訴趣意第二点について。

原判決は「被告人は、昭和二十一年七月一日より同年十一月三十日迄の間農林省木炭事務所に供出売渡した木炭の価格改訂により、差額金を生産者に增産奬励の名義で当時の宮城県農業会林産課を通じて当時の富岡村農業会は昭和二十二年七月三十一日、八月一日、八月十三日、九月五日の四回に亘り送金を受けたのでその都度当時の農業会長であつた眞壁茂右衞門より、同村内宮脇、末沢、大下の三農事実行組合の製炭者に交付すべき前記差額金の支払方を託され保管占有中の合計金四万五千八百八十五円の内から、昭和二十二年八月十日頃以降昭和二十三年十月初句までの間、八回にわたり費消橫領した」との旨の事実を認定している。しかるに本件起訴状記載の公訴事実は「被告人は昭和二十一年七月一日より同年十一月三十日迄の間農林省木炭事務所に供出売渡した木炭の価格改訂により右事務所より差額金を製産者に增産奬励の名義で当時宮城県農業会林産課を通じて送金を受け当時富岡村農業会長眞壁茂右衞門より昭和二十二年七月三十一日柴田郡畠岡村所在の前記農業会に於て同村大下農事実行組合等同組合員佐藤円治等に対し金五万三千八十八円及び同年八月十三日同村宮脇農事実行組合等同組合員佐藤円吉等に対し金五万一千三十四円の支払を託され保管占有中、右金員の内から昭和二十二年八月十日頃以降昭和二十三年十月初旬までの間八回にわたり費消橫領(費消の内容は原審の認定と同一)した」というのである。しかして橫領罪は保管の原因である委託の根拠を異にする毎に各別個の犯罪を構成するものであるから、裁判所において起訴状の記載と同一の日時、場所、内容、金額の費消の事実を認定するとするも右費消金員の保管関係が起訴状記載の委託関係に併せ他の委託関係を含むものである場合においては、右認定のため少くとも訴因変更の手続を要するものと解しなければならない。本件において原審の認定した被告人の金員保管の委託の根拠は、昭和二十二年七月三十一日、八月一日、八月三十一日、九月五日の四回に、農業会長から、被告人が、富岡村内宮脇、末沢、大下の三農事実行組合の製炭者に対する差額金の支払を託されたものであるというのに対し、起訴状記載の委託の根拠は、昭和二十二年七月三十一日同村大下農事実行組合等同組合員等に対する差額金及び同年八月十三日同村宮脇農事実行組合等組合員等に対する差額金の各支払を同農業会長から二回に託されたものであるというのであつて、右原審認定の委託の根拠は各別に明確であるといいえずまた費消金員とこれとの関係も明確であるといいえないけれども、これを起訴状の記載と対照して考察すれば、少くとも費消金員の保管に関し、該記載の委託関係以外の別個の委託関係を併せ認定したものと認めなければならない。しかるに記録を検討するも、何等訴因変更の手続をした形跡が認められないから、原判決には審判の請求を受けない事件について判決した違法があるといわねばならない。

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